第2章1話 ふたりの親友を訪ねて 環いろは 「私はずっと不思議に思ってた。自分の部屋が、半分だけ空っぽになっているのが・・・」 環いろは 「お父さんとお母さんが言うには、私が何も置きたくないって言ったみたい」 環いろは 「だけど私には、そんな記憶はなかった」 環いろは 「でも、今の私には理由が分かる」 環いろは 「ここにはね、うい・・・あなたがいたの・・・」 環いろは 「この不自然に空いた部屋のスペースの半分は、あなたのスペースだった」 環うい 「やった、お姉ちゃんと一緒の部屋だ!」 環うい 「なんだか不思議・・・」 環うい 「これから毎日、お姉ちゃんと、一緒に学校に行けるなんて」 環いろは 「こうして目を瞑るとね、ういと一緒にいた頃の記憶が蘇ってくる」 環いろは 「それは自然と色んな記憶に繋がってね、私に大切な事を思い出させてくれたよ」 環いろは 「一緒に入院していた、灯花ちゃんとねむちゃん」 環いろは 「とっても頭がよくて、なんだか不思議な、ういの親友」 環いろは 「きっと、あの子たちなら憶えてる・・・ううん、憶えていて欲しい、ういのこと・・・」 環いろは 「だって病院の中で、ずっと一緒だったんだから・・・」 環いろは 「(確かここを曲がって、坂を上ったら病院なんだけど・・・)」 環いろは 「なんでスマホってこんなに難しいんだろ・・・」 環いろは 「地図の青い点が私で・・・この矢印は・・・なに・・・?」 環いろは 「(うぅ・・・方向音痴を、治す薬ってないのかな・・・?)」 環いろは 「ねぇ、littleqb、地図を見るのって難しいね・・・?」 小さいキュゥべえ 「キュイン・・・」 環いろは 「あ、そっか!」 環いろは 「この矢印って、スマホを向けてる方角なんだ」 環いろは 「はっ・・・」 環いろは 「(建物・・・見えてた・・・)」 環いろは 「この病室だ・・・」 環いろは 「・・・・・・・・・・・・」 環いろは 「(少し前まで、ういも一緒にいた病室・・・)」 環いろは 「(灯花ちゃんも、ねむちゃんも、元気にしてたらいいな・・・)」 環いろは 「(どうか、ふたりとも憶えてますように)」 環いろは 「よしっ!」 環いろは 「灯花ちゃん、ねむちゃ・・・」 環いろは 「・・・・・・・・・・・・へ?」 環いろは 「(いない・・・・・・?この角部屋のはずなんだけど・・・)」 環いろは 「(病室移っちゃったのかな・・・?)」 環いろは 「(確か灯花ちゃんは、元々自分の個室があったし・・・)」 環いろは 「(ねむちゃんも、病状次第では移動してるかも・・・)」 看護婦 「あの、ちょっといいかな?」 環いろは 「ふぁっ!?はい!?」 看護婦 「お見舞いの方は、先に受付で、手続きを済ませて欲しいんだけど」 環いろは 「えっ、あっ・・・」 看護婦 「入館証って持ってる?」 環いろは 「あの・・・持ってません・・・」 環いろは 「はぁ・・・」 環いろは 「(家族じゃないと病室も、教えてもらえないなんて・・・)」 環いろは 「いきなりつまずいちゃった・・・」 環いろは 「(灯花ちゃんとねむちゃん、私の記憶違いじゃないよね・・・?)」 環いろは 「ねむちゃんは、お話を書くのが大好きで、ネットに載せた物語が本になるような子・・・」 環いろは 「灯花ちゃんは、宇宙のお話を偉い人と議論するような、すっごく頭の良い子・・・」 環いろは 「ういと仲が良かったのが、不思議なぐらい、才能に溢れた子たちだったけど」 環いろは 「いつもは良くケンカをし合う、普通の子だった」 里見灯花 「ちょっと、ねむ!!ひどーい!」 里見灯花 「そんなところで革命なんて、する必要ないよねー!?」 柊ねむ 「物語で意表を突くのは当然の事。大富豪をしている時もまた同じ」 里見灯花 「わたくしかんぺきだったのにー!」 里見灯花 「みんなが持ってるカードも、場に出てるカードも」 里見灯花 「ぜーんぶ分かってたんだよー?」 里見灯花 「もうもうもう、せっかく立てた、勝利へのフローがぁぁぁん!」 柊ねむ 「理屈で凝り固まった人間が、敗北する姿は愉快だよ、灯花」 里見灯花 「なにうぉーー!?」 里見灯花 「もういいよ!バカねむとは、絶交だよーだ!」 柊ねむ 「大変結構なことだよ。僕からもぜひそうして欲しい」 里見灯花 「むっ!?」 柊ねむ 「ん!?」 環うい 「もう、やめてよふたりとも!何回絶交したら気が済むの!?」 環いろは 「(やっぱり、記憶違いだとは思えない・・・)」 環いろは 「(周りがついて行けない口喧嘩も、その度にういが入る様子も・・・)」 環いろは 「ほんと・・・よく絶交だって言ってたはず・・・」 七海やちよ 「絶交・・・ですって・・・?」 環いろは 「ーーーっ!?だれ・・・?」 小さいキュゥべえ 「プイッ!」 環いろは 「あ、あなた・・・」 七海やちよ 「今、絶交って言ったわね・・・」 環いろは 「確か、やちよさんでしたっけ・・・?」 七海やちよ 「あら、覚えてくれてたのね」 環いろは 「覚えちゃいますよ・・・あんなに狙われたんですから・・・」 七海やちよ 「それも、そうかもしれないわね」 環いろは 「・・・・・・・・・・・・」 七海やちよ 「そんな構えないでくれる?危害を加えるつもりはないから」 七海やちよ 「ただ、忠告しようと思っただけよ」 環いろは 「忠告・・・ですか・・・?」 七海やちよ 「えぇ・・・」 七海やちよ 「絶交なんて言っちゃだめよ。この町の中では絶対に」 環いろは 「へ?」 七海やちよ 「特に誰かと仲違いした時に、言ってみなさい」 七海やちよ 「たちまち絶交ルールのウワサに、捕らわれてしまうから・・・」 環いろは 「噂に、捕らわれる・・・?」 七海やちよ 「こんな話、聞いたことないかしら?」 ウワサさん 「アラもう聞いた?誰から聞いた?絶交ルールのそのウワサ」 ウワサさん 「知らないと後悔するよ?知らないと怖いんだよ?」 ウワサさん 「後悔して謝ると、嘘つき呼ばわりでたーいへん!」 ウワサさん 「怖いバケモノに捕まって、無限に階段掃除をさせられちゃう!」 ウワサさん 「ケンカをすれば、ひとりは消えちゃうって、神浜市の子どもたちの間ではもっぱらのウワサ」 ウワサさん 「オッソロシー!」 七海やちよ 「と、まぁ、こんな感じなんだけど」 環いろは 「えっとぉ・・・今のが絶交ルールですか?」 七海やちよ 「えぇ」 七海やちよ 「絶交と言えば最後」 七海やちよ 「何があっても、謝罪の言葉を口にしてはだめ」 七海やちよ 「関係を修復しようと謝ると、バケモノに捕まってしまうの」 環いろは 「あの、そんな突拍子もない話、急に言われても・・・」 七海やちよ 「信じておきなさい」 七海やちよ 「”神浜うわさファイル”の中では、非常に信憑性が高いうわさだから」 環いろは 「かみ・・・はま・・・?」 七海やちよ 「”うわさファイル”よ!」 七海やちよ 「神浜に溢れている謎のうわさを、私が纏めたものなの」 環いろは 「へぇ・・・」 七海やちよ 「最近、この町では、色々な噂が現実になっているわ」 七海やちよ 「現実になったウワサ次第では、行方不明者だって出てる・・・」 環いろは 「そんなことって・・・」 七海やちよ 「嘘じゃないわ」 七海やちよ 「そのキュゥべえと同じぐらい、イレギュラーなことなんだから」 環いろは 「ーーーっ!?」 環いろは 「やちよさん、littleqbを、まだ狙ってるんですか・・・?」 七海やちよ 「それはあなたの回答次第よ」 七海やちよ 「悪いことが起きてないのなら、別に狩る必要もないでしょうし」 環いろは 「悪いことなんて起きてません・・・」 環いろは 「あったとしても、妹のことを思い出したぐらいで・・・」 七海やちよ 「妹・・・って、そんな身近な人を忘れてたの?」 環いろは 「あ、はい・・・」 環いろは 「ただ、お父さんもお母さんも、妹のことは覚えてないし」 環いろは 「あの子の物も、何も残ってないから」 環いろは 「本当に私の記憶が正しいって、証明できるものはないんです」 七海やちよ 「それは、偽の記憶でも、植え付けられたんじゃないの?」 七海やちよ 「はたまた、その妹さんのために、世界が改変されたか・・・」 環いろは 「改変・・・・・・?」 七海やちよ 「さすがに大げさかしらね」 環いろは 「・・・大げさかどうかも、分からないです」 環いろは 「今は何を言われても、否定できませんから・・・」 環いろは 「それでも私は、妹がいたと思っています」 環いろは 「あの子を思う度に、温かい気持ちになるから・・・」 環いろは 「だから私は、思い出したことを信じてますし」 環いろは 「妹を見つけたいと思っています・・・」 環いろは 「だから、不思議なことはあっても、悪いことは起きてません」 七海やちよ 「そう・・・それなら、私が言うことはないわね・・・」 七海やちよ 「それに、分からなくはないしね・・・」 七海やちよ 「あなたの気持ちも・・・」 環いろは 「え?私の気持ち・・・?」 七海やちよ 「いえ、気にしないで」 七海やちよ 「それじゃあ、私は行くわ」 七海やちよ 「うわさには気をつけなさい。忠告はしたわよ」 環いろは 「(灯花ちゃんとねむちゃんのこと、結局、何も分からなかったな・・・)」 環いろは 「(それに、やちよさんの話、どう受け止めればいいんだろ・・・)」 環いろは 「噂が現実になるなんて・・・littleqbはどう思う?」 小さいキュゥべえ 「モキュモキュ!?」 環いろは 「うーん、なんとも言えないよね・・・」 水波レナ 「アンタがちゃんと見つけてきたら、良かったでしょ」 環いろは 「ふぁっ!?」 環いろは 「な、なに、すごい声が・・・」 秋野かえで 「だって無かったんだから、仕方無いでしょ!」 環いろは 「公園の方から聞こえてくる」 環いろは 「(喧嘩・・・?)」 環いろは 「あれ・・・・・・・・・・・・」 環いろは 「もしかして・・・ももこさん・・・!?」 環いろは 「それにもうひとりの子って・・・前に結界で助けた・・・」 十咎ももこ 「だーから、落ち着けよ。一体何で喧嘩してんのさ」 水波レナ 「ももこには関係ないでしょ」 秋野かえで 「そうだよ、ももこちゃんは黙ってて!」 十咎ももこ 「おいおい、これでもアタシ、一応リーダーなんですけど?」 水波レナ 「うるさい!もう、かえでとは絶交だから!」 秋野かえで 「あー言った!」 秋野かえで 「そう言うなら私も、レナちゃんとは絶交だもん!」 十咎ももこ 「ばっかもう、そいういうことは、軽々しく口にすんなよな」 十咎ももこ 「ってか、おまえらこれで、何回目の絶交だって話だよ?」 水波レナ 「・・・・・・・・・・・・」 十咎ももこ 「ほら、話してみ?なんか理由があるんだろ?」 水波レナ 「ーーーーっ!!」 水波レナ 「いちいち首突っ込むな、この、過保護お節介やろう!」 十咎ももこ 「お、おい、レナ!暴言吐いて逃げんな!!」 十咎ももこ 「ーーっ!?」 環いろは 「わぁ・・・」 環いろは 「(言っちゃってる・・・絶交って・・・)」 十咎ももこ 「いろはちゃん、そいつ捕まえて!!」 環いろは 「へ?あ、はい!?」 水波レナ 「どーーーけーーーー!!」 環いろは 「ひぃっ!」 環いろは 「えっ!?わっ!?」 環いろは 「と、とまってぇー!」 水波レナ 「アンタ・・・!」 水波レナ 「ももこの知り合いだかなんだか、知らないけど」 水波レナ 「容赦しないからね!」 環いろは 「あっ・・・!」 水波レナ 「ふんっ、懐に入りゃ、有利な射程も形無しでしょ!」 環いろは 「(やられちゃう・・・)」 水波レナ 「これでもくらえ!」 環いろは 「ふぅ!」 環いろは 「ふぇえ!?わっ私!?」 水波レナ 「隙アリ!」 環いろは 「キャッ!」 水波レナ 「フンッ、事情も知らないヤツが、出しゃばってんじゃないわよ」 水波レナ 「バーカ!」 環いろは 「いったた・・・」 十咎ももこ 「くそっ・・・逃げられたか・・・」 秋野かえで 「・・・・・・・・・・・・」 十咎ももこ 「はいこれ。アタシのおごりでいいから」 環いろは 「あっ、そんな私・・・」 十咎ももこ 「アタシらの喧嘩に、巻き込んだお詫びだからさ」 秋野かえで 「それに、前に助けてもらったお礼もできてないし・・・」 環いろは 「あ、うん・・・それじゃあ、お言葉に甘えて・・・」 十咎ももこ 「そっか、ふたりは、前にあった事があるんだっけ?」 環いろは 「はい、挨拶はしてなかったけど」 秋野かえで 「あ、そ、そうだよね。私、”秋野かえで”っていいます」 環いろは 「私は”環いろは”です。よろしくね、かえでちゃん」 秋野かえで 「うん」 環いろは 「それで、さっきの喧嘩って何だったの?」 秋野かえで 「あ・・・えと・・・・・・・・・・・・」 十咎ももこ 「まーた、だんまりか・・・」 十咎ももこ 「さっきからずっと、この調子なんだよ・・・」 十咎ももこ 「まぁ、別にキミたちふたりが、喧嘩をするのは日常茶飯事だし?」 十咎ももこ 「無理に言えとは言わないけどさ」 環いろは 「そんなにしょっちゅう・・・!?」 十咎ももこ 「そりゃあもう、茶飯事に、お菓子の時間を加えるぐらいにね」 秋野かえで 「やめてよ、ももこちゃん。恥ずかしいよ・・・」 十咎ももこ 「悪い悪い、大抵はレナが原因だしな」 十咎ももこ 「ま、今回も大方そうだろうし、アイツも明日になったら謝るだろ」 十咎ももこ 「いつも頭が冷えたら、反省してくるんだからさ」 環いろは 「・・・・・・・・・・・・」 七海やちよ 「えぇ・・・」 七海やちよ 「絶交なんて言っちゃだめよ。この町の中では絶対に」 七海やちよ 「特に誰かと仲違いした時に、言ってみなさい」 七海やちよ 「たちまち絶交ルールのウワサに、捕らわれてしまうから・・・」 環いろは 「かえでちゃん・・・絶交って言ってたけど大丈夫・・・?」 秋野かえで 「え?大丈夫って?」 環いろは 「絶交ルールっていう噂がね、危ないって聞いたんだけど・・・」 十咎ももこ 「ーーーっ!?」 十咎ももこ 「いろはちゃん。それ、だれから聞いたの?」 環いろは 「え、と、やちよさんから・・・」 十咎ももこ 「あっはは、やっぱりね」 十咎ももこ 「そんな馬鹿正直に、受け取らなくても良いよ」 十咎ももこ 「あの人、噂オタクだからさぁ」 十咎ももこ 「これでもかってぐらい、噂なら何でも信じてるんだよ」 環いろは 「そう、なんですか・・・?」 十咎ももこ 「そうだよ、だから気にしなくていいよ」 十咎ももこ 「噂が現実になるなんて、ありえっこないんだから」